人工衛星プロジェクトの進捗状況[2012]

前人未到の宇宙の開発 工大生が挑む!

工学部機械工学科・教授・田原 弘一

1.プロイテレス衛星1号機打ち上げ決定!

大阪工業大学・電気推進ロケットエンジン搭載小型スペースシッププロジェクト(Project of OIT Electric-Rocket-Engine onboard Small Space Ship(PROITERES:プロイテレス)、公式ホームページ:http://www.oit.ac.jp/elc/scl/oitsat/index.html)では、電気推進ロケットエンジン(小惑星探査機「はやぶさ」に搭載された「イオンロケットエンジン」など)を搭載した超小型人工衛星プロイテレス(図1、図2)の開発・打ち上げを目指しています。そのミッションは、
1.電気推進ロケットエンジン(図3)による超小型衛星では世界初の動力飛行(地球低軌道から軌道上昇をロケット連続噴射により達成(宇宙動力飛行の実現))(ほとんどの人工衛星・探査機は、地上打ち上げの反動で飛行しているようなもの。自由に宇宙を飛翔することはほとんどできません。)
2.高解像度カメラによる地球観測、特に関西地区、淀川域の環境観察(現代GP「淀川学(環境教育)の構築と実践」の支援)です。人工衛星のスペックは、質量14.5kg(大きさ:一辺30cm程度の立方体)、電力10W、高度670km(極軌道(北極と南極の上空を通過する軌道))、衛星寿命1年以上です。インド宇宙研究機関(Indian Space Research Organization: ISRO)のPSLVロケットでの相乗り衛星として、インド南東部(チェンナイ市北部)のサティシュ・ダワン宇宙センターから打ち上げられます。
このプロイテレス衛星1号機の打ち上げが今夏に決定しました。現在今年7月下旬打ち上げで最終調整に入っています。昨年2011年6月、インド・バンガロール市のISRO本部にてプロイテレス衛星打ち上げに関する会議に参加した時点では、インド側から諸事情により衛星打ち上げが2012年後半になると聞き、憤慨すると共にこれまで頑張ってきた学生に申し訳ない気持ちで一杯でした。しかし今年1月に急遽インド側から国際電話で連絡があり、7月に衛星を打ち上げるから準備できるかと言われ、「Of course!(もちろん)」と強く応えたのを今でも鮮明に覚えています(インドのロケット打ち上げスケジュールが変更されるのはよくあることなのです!)。衛星の打ち上げは学生の夢と同時に私の夢でもあるのですから!

その後、大忙し!今年2, 3月はインド側からの技術的な問い合わせへの対応で毎日ように電子メールと電話でやり取りがありましたが、(待てよ!)これも教育に利用できると考え、途中からはインド側からの問い合わせをすべて学生に流し(もちろん英語)、その内容把握、対応策など決定させ、英語で電子メールを打たせ、時には直接国際電話に出し、実践英語能力のアップを目指しました。同時に衛星輸出のために経済産業省への許可申請、通関手続きの準備なども並行して進めてきました。今後、5月にインドから技術者をお迎えし最終打ち合わせ、7月上旬に学生・教員チームが直接インドへ衛星を手持ちで輸出し、打ち上げに臨みます。

現在開発に携わっている学生、打ち上げを見ることなく卒業・修了していった学生、さらに我々教員、全員の熱い思いを乗せ、プロイテレス衛星は今夏宇宙に旅立ちます。成功祈念よろしくお願い致します。

図1 プロイテレス衛星1号機の概略図

2.衛星2号機・動力飛行型実用地球観測衛星と
  3号機・月探査衛星の開発順調!

学部4年生を中心にプロイテレス衛星2号機(図4)、3号機(図5)の開発に着手しました。2010年11月より、「電気推進ロケットエンジン動力飛行型地球観測小型実用衛星」であるプロイテレス衛星2号機(想定質量50kg)の研究開発がスタートしました。プロイテレス衛星1号機の開発技術と経験を活かして、衛星2号機では地球観測実用衛星の開発を目指し、大量生産可能な汎用衛星バスを研究開発します。特に、プロイテレス衛星シリーズの目玉である、電気推進ロケットエンジンを搭載することにより、迅速に目的地上空に移動し地球観測を行います。電気推進には衛星1号機に搭載したパルスプラズマロケットエンジンを採用し、その大電力化(20-30Wクラス)と固体推進剤テフロンの大量供給装置の開発を行います。さらに、観測カメラシステムの高解像度化を目指し、分解能0.5-2mを電気推進エンジンによる衛星高度の調整を併用して実現します。現在、プロイテレス衛星2号機のミッション設定が終わり、実際の搭載機器の選定、システム設計を行っています。
「電気推進ロケットエンジン動力飛行月探査小型衛星」プロイテレス衛星3号機(想定質量50kg)では、超小型衛星では世界初の月探査を目指します。新開発の電気推進ロケットエンジン(図6)を用いて、スパイラル軌道遷移により地球低高度軌道から月軌道まで動力飛行します。電気推進にはホール型イオンエンジン(電力20-30Wクラス;推進剤キセノン;比推力2000秒(比推力を約10倍すれば噴射速度m/sec、燃費の指標);推進効率30%)を採用します。衛星2号機と同様、概念設計、基礎設計の段階であり、両衛星共に3年後の完成、打ち上げを目標にしています。

3.大きく広がる大阪工大・宇宙工学教育・研究

-低学年生教育プログラム・カンサットの製作・コンテスト参加から衛星開発ベンチャー企業の設立準備まで!-

学部1年生から大学院生まで幅広く本プロジェクトに参加していますが、低学年1, 2年生用にカンサットプロジェクトを昨年度より導入しました。これは350mlの空き缶(Can)の中に人工衛星の主要機能を詰め込み、気球、もしくは大学研究用やアマチュア研究家ロケットにより数キロメートル上空まで運び、その空き缶衛星(カンサット(CanSat))を放出、地上で回収、その落下時に無線通信、加速度など多くのデータを取得、最終的には目的地への到達を目指すものです(図7)。カンサット甲子園やアメリカ・ネバダ州砂漠でのコンテストなど人工衛星開発教育用プログラムとして近年普及しており、今年はコンテスト参加を目指し本学独自のロケットエンジン搭載カンサット(本学の独自性は「ロケットエンジン」搭載に尽きる!)を製作・実験を行っています。

さらにプロイテレス衛星1号機の成功、次期2号機衛星の開発は、電気推進ロケットエンジンによる超小型衛星の動力飛行実現を意味しており、これまでの宇宙開発を大きく変える可能性を秘めています。国内外から大きく注目され、日本、アメリカにおける衛星ビジネス、電気推進ロケットエンジンシステムの販売など大学ベンチャー企業設立へのお誘いも頂いており、本学衛星開発資金の獲得のために、学生・教員を上げて検討を開始しました。

本人工衛星プロジェクトは、その積極的な実践ものづくり教育活動が話題になり、新聞各社、NHK、韓国の新聞社・テレビ局などマスコミで多く取り上げられてきました。その内容から学生主体の活き活きとした活動の様子がお分かりいただけるでしょう。「夢は必ず実現できる!自分で実現するんだ!」意気込む学生諸君。それは未知の大きな可能性を秘めており、「前人未到の宇宙の開発に工大生が挑む!」、こんな痛快なことはありません。

これからも同窓会の皆様からの志の高い学生諸君の応援、ご支援、よろしくお願いいたします。